馬と人間の営みを見つめた映像詩が完成しました。
マイナス25度。肌が痛み、息が瞬時に凍りつきました。馬たちの暑い汗は蒸気になり、煙のように漂い、やがて体毛と共に凍ります。そこでは、馬と人間が厳しい自然の中で黙々と暮らしていました。
馬と人間の関係は約二千年といわれています。時には働き手として、時には家族として、今では考えられないほど、馬は人間の生活に欠かせない身近な存在でした。「馬ありて」では北日本における馬と人間の営みが時代の波にのまれ消えて行く姿、またこれからも受け継がれていく姿をモノクロの世界で切り取っています。
生活風景
本作品は北海道帯広市、むかわ町穂別、岩手県遠野市を舞台に、馬と人間の生活をとらえます。
馬が何百キロの重りとソリを引く「ばんえい競馬」と呼ばれるレースに挑戦していく馬とその馬飼い。
車が入れない山中で伐採した木材を、馬を使って運び出す「馬搬」の職人。
馬の売買で生計を立てる「馬喰(ばくろう)」。
馬と人の娘の悲恋を描いた「オシラサマ」という民話、信仰。
そうした馬に対する揺るがない愛情や仕事の道具としての割り切り、また馬の存在そのものを讃えた信心など、馬=自然と対峙している彼らの生活から見えることは、現代人が封じ込めようとしている生々しく厳しい世界であり、自然が織りなす美しい世界でした。
かつて吾々人間は、時間や生命の大きな流れ、繋がりに、感謝や畏怖を抱いていました。馬と人間の関係は、自然と人間との関係を同時に表しています。急速に変わり行く時代の中で、馬の瞳は我々が失いつつある心を、じっと見つめています。